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日間維持された。
有効でなかった症例2では、残された有効気道面積が左上葉の半分のみになっていたためと考える。また終末期に訪れる突然の呼吸困難パニックについては、この症例で疑われた悪性気道閉塞等の原因にはオピオイドの内服が第一選択である。それならば吸入で効果が速いほど効果的なはずであるが、最中もその後も変わらなかった。しかも発作時呼吸数40/分に増えチアノーゼとなるが数十分で消失してくるので、おそらく器質的よりも不安による要素の強い発作であったと考える。つまり吸入は肺からの局所作用で働き、大脳辺縁系に対する不安恐怖の減少効果は少ないと推測された。
この発作のときに胸痛をしばしば伴ったが、吸入は生物学的利用度が静脈注射の5%であり鎮痛には用いない4)、とされており、実際に痛みには効かなかった。さらに初回量5mgから10mgに増やした時も効かなかった。いまだ量依存性に効果があるかどうか不明であるが5)、一応倍量ずつ増やし間隔は4時間おきから短くしていく方法がある5)。しかし実際はマウスピースで10分間口から吸うのは患者に負担であり、頻回には行えなかった。また症例1では胸水、腹水が大量になると効かなかった。
継続できなかった症例3では吸入を始めてただちに咳が増強した。蒸留水だけおよび気管支拡張剤と去痰剤の吸入では不快も咳込みもなく持続できた。モルヒネ吸入は特異体質ではヒスタミンを遊離し気管支スパスムを起こす報告がある2)。またpH5であり化学的刺激も起こりうる。湿性咳のある時は誘発する。吸入容液の霧は約12℃と冷たくて、これも気管支スパスムを起こすといわれている3)。
2.呼吸困難感のアセスメント
呼吸困難感は、息が切れる状態に対する自覚的な訴えである。過換気、頻呼吸、過呼吸は呼吸困難とは異なる7)。しかし、終末期呼吸困難感においては、しばしばこれらが複雑に関わってくる。閉塞性肺疾患の所見(肺気腫、気管支炎、気管内腫瘍、急性肺塞栓症、肺炎、気管支喘息、無気肺)、拘束性肺疾患の所見(間質性肺水腫、癌性リンパ管炎、胸郭変形、胸膜線維症、肺胞充満性疾患、胸水)、肺疾患以外の所見(寒痛、心原性肺水腫、貧血、低酸素血症)、神経精神的要素(パニック、神経症、不安、恐怖、孤独)等が癌の最終病像として現れ重複して絡み合い、自覚的に呼吸困難感を呈している。
自覚的である呼吸困難感を定量的に評価することは痛みの客観的評価と同様に必要となる。内科臨床では広くFletcher-Hugh Jones法が用いられている。患者と同じ体格・年齢の健常者と比較して、健常者と同等な1度から着替え・洗面などの日常動作で息切れする5度までに分けられている。Borgスケールは0の呼吸困難から10の最大までに分けられ対数尺度表示になっている。現在緩和ケアで最も用いられているのは10段階のVAS(Visual analog scale)である。今回は結局患者の言葉のカルテ記載をそのまま評価したが、それは患者それぞれの違いをみるとき客観的でなかった。
痛みと同様に緩和ケアではより詳しくかつ評価は簡単なスケールが望まれる。近年用いられ始めたクリニカルオーデットの手法だと終末期に適している。筆者が入手したイギリスのJoseph Weld HospiceでオーデットによるQOLを考えた呼吸困難のスケールを次に述べる。
0−なし
1−軽い呼吸困難。正常活動ができる。そのとき苦痛はない。
2−呼吸困難のため中等度の苦痛がある。疾患程度内で可能なはずの活動ができない。
3−強い呼吸困難が少しの動きでもある。活動制限と集中力の制限が著しくある。
4−安静時にもきわめて強い持続する呼吸困難。他のものごとを考えることができない。

 

 

 

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